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未知との出会いは、空の上で

相田紀昭氏
ANAペストリーシェフ

銀座和光の「グルメ&ケーキショップ」のシェフパティシエを務めた後、ANAにてペストリーシェフに就任。ANA国内線および国際線の全てのクラスのデザートを開発しており、特殊な条件下で調理・提供される機内食においても、地上と変わらない品質の提供を可能とするアイデアを加えながら、様々なレパートリーを披露している。

機内から旅をより魅力的に、まだ出会っていない風景や香りを想像させる旅の序章となれば。そんな願いを込め、ANAぺストリーシェフの相田紀昭氏とMAISON CACAO創業者の石原紳伍による共演は生まれた。機内食とチョコレート、それぞれを探求する両者がどのように互いのモノづくりに出会い、技術と思いが合わさり、新たな体験を生み出したのか。両者の想いを聞いてみた。

2人の意外な共通点


石原:幼少時期からパイロットになるのが夢でした。空港に行くといつもワクワクして、飛行機の飛び立つ姿は1日見ても飽きません!
数年前にファーストクラスでメゾンカカオの生チョコを搭載いただいた時は、夢が叶ったような感覚でした。
それまでは日本の航空会社でもヨーロッパのお菓子との取り組みが多かった中で、日本のお菓子を取り扱って欲しいとの思いがあったので、大きく背中を押していただけたような、とても嬉しい機会でした。そして今、こういったコラボレーションの機会を頂けて、夢の時間を過ごさせて頂いているなと感じます。
日本生まれのブランドとして、JAPAN MADEの魅力を相田さんと共に作り発信できたら、そう思っています。

相田氏:メゾンカカオさんとの出会いはまさにファーストクラスのアロマ生チョコレートでした。随分滑らかなガナッシュだなと感動したのを覚えています。
その後に生チョコクッキーを食べた時にも、これはクッキーなのか!?と疑うほどでしたね。本当は焼いていないんじゃないか・・・と(笑)
これは私には作れない、どんな作り方をしたのだろうととても興味が湧きました。
商品としての完成度が極めて高いクッキーなので、そのままが一番美味しい。変えたり混ぜたりするのは邪道では、とも思いました。
でもコラボレーションの機会をもらって、やるなら普通ではないアイデアで新しいフレーバーを考えたいと、取り組みが始まりました。

石原:最初にお会いした時に、僕たちのブランドが使命感として大事にしていること、コロンビアでのストーリーや原料へのこだわりをすごく真剣に聞いて、興味を持って下さった感覚がありました。
クーベルチュールをリスペクトして、その魅力を生かそうとして下さっていたのが嬉しかったです。

相田氏:クーベルチュールは本当に美味しかったです!
石原さんが現地に管理農園を持ち、カカオの栽培から行なっていること、発酵や焙煎、調合の工程にもこだわっていることをお聞きし、納得でした。こだわり抜いて生まれた繊細な味わいでしたね。それぞれの%(カカオ分)には意味があるし、ストレートに味わうのが素材の魅力が引き立って美味しいので、今回の開発は本当に苦労しましたよね。

石原:相田さんとのモノづくりは発見が多くて学びになりました。例えばクーベルチュールの試食も、探求しながらチョコレートを食べているようで、どこの味や香りを探しているんだろうと。刻みながら繊細に味を作っていく工程がとても面白かったです。

相田氏:私、実は製菓学校を出ていないんですよ。

石原:えー!!!!!!それはびっくりです。

相田氏:だからお菓子づくりの「普通」が僕にはないんですよね。石原さんとすごく似ているなと一緒にモノづくりをして感じました。
近所に美味しいケーキ屋さんがあって、そこのケーキが大好きで、部活の引退試合が終わってすぐに就職させてくださいと頼んで働き始めました。5年面倒を見るといってもらって、5年間勉強しました。その後、赤坂にある有名なチーズケーキ屋さんで働くこととなり、そこで大量生産を学び、朝から晩までチーズケーキを作っていたら、小麦粉アレルギーになってしまって。半年は湿疹だらけで仕事は禁止、寝たきりで過ごしました。それでもお菓子づくりが好きで、自分にはこの仕事しかないと思っていたので、もう一度ケーキ屋さんに戻ったんです。どうしたら小麦粉に触らずに済むのか、管理者・指導者を目指そうとそこから必死に勉強して今があります。
石原さんも製菓学校を出られてなかったですよね?

石原:そうですね、製菓学校どころかお菓子づくりをしたこともなければ、実はチョコレートは嫌いでした(笑)僕は飛行機が好きで、旅も好きで、プライベートで訪れたコロンビアでカカオ農園に足を踏み入れたことがきっかけでした。そこで食べた生のカカオの美味しさに感動をして!この美味しさをもっとダイレクトに表現できないのか、フレッシュで鮮度の良いチョコレートを作りたい、そこがスタートでした。相田さんがおっしゃるように、「こうあるべき」みたいな常識がないんです。だからこそ、今回のコラボレーションが生まれたのかもしれません。

未知を探求する、2人のモノづくりのこだわり

石原:今回は2種のフレーバーをご一緒させて頂きましたが、僕が印象的だったのは「ノワール・ブラン」。
直訳すると「黒・白」という意味ですが、ビターチョコレートとホワイトチョコレートをブレンドしています。
ビターチョコを食べた時に「ビター感がすごく力強い」ホワイトチョコを食べた時には「切れ味が良い」そう相田さんがおっしゃっていたから生まれたフレーバーです。素材の魅力を理解いただき、その個性を生かしたいと思うからこその掛け合わせでした!

相田氏:普通ではしない掛け合わせなので、もしかしたら互いの良さを消しあうかもしれないと思いましたが、結果引き出す美味しさにできてよかったです。もう1つのフレーバー「ベルガモット」も良かったですね。香りだったらオレンジ・レモンが人気ですが、ありきたりでつまらない。個人的に紅茶のフレーバーが好きで、中でもベルガモットは気品漂う味わいと香りが特徴の高級なフルーツです。アップルティー、ハイビスカス、ハーブ系も考えましたが、チョコの香りとの相性を踏まえて、ベルガモットとしました。

石原:生チョコでベルガモットのフレーバーがあるのですが、確かに生活を大切にしている方が好まれるイメージがあります。魅力的な素材ですが、焼き物のクッキーで美味しさを引き出せるかは少し心配でした。

相田氏:クッキーに水分量が多いので、ベルガモットを入れても香りが表現できましたね。どちらも自由な発想、まずはやってみようと思える2人だからこそ完成した味わいだと思っています。今回のコラボレーションは、メゾンカカオさんのクッキーが完璧だったので、正直いじりたくなかったんです。でもそれだとコラボにならないので、色々と挑戦しました。チョコレートは味に加えて、後からくる香りが特徴なので、風味、酸味、フレーバーを加えるコラボレーションとなりました。

石原:今回ホワイトとビターのチョコレートがしっかりと組み合わさったのは、本当に革新的だったと思います。ベルガモットも相田さんのアイデアあってのもので、本当にアップグレードできたクッキーでした。新しいチョコレートスイーツの到達点を照らしてくれた、そう感じています。

届けたいのは美味しさを超えた体験

相田:私が一番大切にしていることは食べる側の立場に立つこと。飛行機での旅、そして機内で受けるサービスは、特別な体験であり時間です。中でもデザートは料理の締めくくりなので、デザートの印象はとても大事だと思っています。自分が食べる立場になった時に本当にこれが美味しいと思えるのか、それだけの価値があるのかは常に考えています。
機内食って大量に作りますよね。作る側は1/何万ですが、食べる人にとっては1/1。全部平等でなくてはいけないと思っています。隣の人の方が美味しそうとか、大きいとかはダメです。そして特に、ケーキやショコラは自分へのご褒美や記念の時に食べるものや大事な人に贈るものです。記憶に残るものを作りたい、お客様の想像を超えるものを作りたいと思っています。
とにかく楽しんでほしいですよね、その笑顔を見れることが1番のやりがいです。鎌倉に行った時に、石原さんが色々食べさせてくれたじゃないですか、あっ、職人として自信があるんだな、相手の笑顔が見たいという思いが強いんだろうなと感じました。なんだか私たち、似ていますね!

石原:そんな恐縮です、ありがとうございます!
僕もお客様がどう感じるかが全てだと思っています。味、デザイン、ストーリー含めて、お客様にどういう体験を届けられるかが大事と信じてモノづくりをしています。僕が大切にしている考えに、「職人は素人が気づかないような細かな点にこだわり続けるのが仕事」という教えがあります。自分ではオーソドックスなクッキーはできていましたが、今回ご一緒させていただくことで、新たな視界としてアップデートできたのが本当に学びになりました。

「未知との出会いは、空の上で」

素材をリスペクトし、その可能性を探求し続け、想像を超える体験をお客様に届けたい。そう願い、2人が想いと技術を重ねて生み出したスイーツは、どんな未知との出会いをさせてくれるのだろうか。日本発信、未来を見据え世界に羽ばたく両ブランドこそが創れた、空の旅をより楽しめる一品が楽しみでならない。

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