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旅するメゾン 山梨 笠井桃園を訪ねて

メゾンカカオの夏を彩る白桃。
生チョコレートやショコラ・コキーユ、今年は生カカロンやパート・ド・フリュイにも、その瑞々しい味わいが活かされている。
毎年この季節を心待ちにするお客様も多い、その桃を育てているのが山梨県山梨市の笠井桃園。石原が毎年会いに行きたくなる理由は、桃の美味しさだけではない。
今年もまた、初夏の爽やかな風が吹く山梨を訪ねた。


桃と暮らす。

「笠井さーん!」

お家の玄関先で石原が声をかける。

「石原さん!元気?」

いつもの素敵な桃色のシャツで、笠井さんが笑顔で迎えてくれた。

「わぁ、みんなで。いらっしゃい!」

思わず抱き合う二人。その瞬間、石原の表情がふっと柔らかくなる。まるで実家へ帰ってきた息子のようだった。

「これ、お土産です。」

今年の桃を使ったパート・ド・フリュイに、新作の生フロルケーキ。

「えっ、ケーキまで!」

箱を抱えながら、「今日も頑張ったから、あとでみんなで食べよう。」

そう言って嬉しそうに笑う。

その姿を見ているだけで、こちらまで嬉しくなってくる。



桃と同じ太陽を浴び、同じ風を感じ、同じ水で生活したいそんな想いから、笠井さんご一家は桃園のすぐ近くに暮らす。それは、文字通り「桃と一緒に生きる」という日々。

約4〜5ヘクタール。東京ドームほどの広さの農園で、13品種の桃を育てる。気がつけば、桃一筋で50年以上。

笠井さんにとって桃づくりは仕事ではない。暮らしそのものだった。

「この桃は、ピンキッシュね。」
チャーミングな言葉と共に愛おしそうに桃を手に取る様子からは、笠井さんが桃へ注ぐ愛情深さを感じた。

毎年違うことをする
迎え入れてくれた大切な桃園の土は、驚くほどふかふかとして柔らかい。
地域の方から譲り受けた「もみがら」お米の外側の殻の部分を土に混ぜることによって水はけを良くし、根がしっかり張れる環境を整えているのだという。
桃の木々の間から差し込む柔らかな木漏れ日、葉が重なり揺れる風の音。そして栄養分たっぷりの土から、大地のエネルギーが伝わってくる。
濃い緑のカーテンのように生い茂る葉の隙間から、赤く色付いた桃たちがちらちらとのぞく。

「ヒビが入った桃の方が甘いんだよ。」
ひとつずつ丁寧に桃を手に取りながら、笠井さんは教えてくれた。
瑞々しい果汁をたっぷり含んだ桃は、かじった瞬間ぽたぽたと果汁が溢れるほどにジューシーで、ほんとうに美味しい。実をもぎ取った枝からも、勢いよく果汁が飛び出す。やわらかな桃の甘みに包まれてゆっくり流れる時間は、訪れたメンバーにとって愛情を届けることを学ぶ大切なひとときとなった。

毎年同じことを繰り返せば、必ず美味しい桃ができるわけではない。

桃のためにできることはすべて行うという誠実さ、そして予想できない自然の変化には柔軟に、楽しみながら探究心を持って道を切り開いていく姿勢。
「最近はトラクターも入れながら整備をしているの。」
伝統を守るだけでなく、新しい取り組みや変化をも楽しみながら日々桃作りに励むその姿こそが、この場所が時代を超えて多くの人々から愛され続ける理由なのだろう。

世界から人が集まる場所
笠井桃園にいると、いろんな言語が聞こえてくる。
「今日もありがとうね。」収穫シーズンの目が回るような忙しさの中でも、笠井さんは笑顔でメンバーへの感謝を忘れない。笠井さんの桃園には、毎年世界中からボランティアメンバーがやってくる。今回の訪問では、コロンビアからの参加者も笑顔で出迎えてくれた。コロンビア産のチョコレートを届けているMAISON CACAOのメンバーも、その出会いはどこか運命的で、深い親近感を覚えた。
桃園のホワイトボードには数多くの桃の品種が、アルファベットのふりがなと共に記されていた。国境を越えて集まったメンバーたちが、ともに桃を育て、届けるために重ねてきた努力の跡が刻まれていた。
「はい、どうぞ。」そういって笠井さんが手渡してくれる桃は、ずっしりと重い。多くの人の手を通じて愛情たっぷりに育てられているのがその一玉からじんわりと伝わってきた。


愛情がまるごと
「これは今が食べ頃。さっきのとは全然違うよ。」

「これは私が一番好きな白鳳。」

品種が変わるたびに香りも甘みも変わる。

「美味しいでしょう?」

その笑顔は、まるで大切な家族を紹介しているようだった。


歩いていると、大きな一本の桃の木があった。
「よくここまで大きくなったね」愛おしそうに桃の木に声をかける笠井さん。
他の木に嫉妬されないよう、そっと小声で話しかけるのが大事なポイントなのだと微笑む。
「どんな時も、仕事は楽しく。その気持ちはきっと、桃にも伝わるからね。収穫が終わったら、“お疲れ様、ありがとう”って話しかけるの。」

夫婦で50年以上、桃と暮らしてきた。

勘と経験で木を見極める、茂さん。

細やかな気配りで農園を包む、ジェシカ 恵美子さん。

自然が相手だからこそ、予想できない変化も柔軟に楽しみ、探究心を持って道を切り開いていく。どこまでも自然体でありながら、進むべき方向を見据え、未来へと農園をつないでいく。

磨かれた感性と、日々の積み重ね。——そのどちらも欠かせないからこそ、毎年新しい美味しさに出会えるのだ。


「今年の春もみんなでお花見をしたの。」
鮮やかな桃の花が満開に咲く木の下で、みんなでお花見をしている写真を見せてくれた。あたり一面に広がるピンキッシュな花の景色は、メンバーも思わず「わぁ!」「綺麗!」と歓声が出る。
花が咲く時期には、なんと一輪ずつ手作業で受粉させているとのこと。その丁寧さの積み重ねが、未来の桃に繋がっている。
「今度はぜひ、桃の花が咲く時期に来てね。」また一つ、この場所へ戻ってくる理由ができた。
届く人にもその愛情がまるごと伝わるような、優しく力強い桃。
その愛情の結晶である果実を受け取り、チョコレートへと昇華させるMAISON CACAOもまた、同じ想いを抱く情熱のリレーで繋がっている。
笠井桃園からMAISON CACAOへ、そしてその製品を手にする方の元へ。
バトンは今年も確かに、次へと渡されていく。

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