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《対談》本山峰之氏 × 石原紳伍

本山峰之(サントリースピリッツ株式会社、ウイスキー事業部 部長、ウイスキーアンバサダー)

1999年にサントリー入社。営業・宣伝部を経て、2011年よりウイスキー部に所属。「山崎」、「響」のブランドマネージャーを経験し、現在は主に海外のブランドマーケティングを担当

世界に誇るウイスキーの最高峰、サントリーウイスキー。1923年に創業者の鳥井信治郎氏が日本初となるモルトウイスキー蒸溜所の建設を開始し、原酒づくりとブレンド技術を磨き続け、「角瓶」「トリスウイスキー」「山崎」「響」「白州」と数々の名作を生み出してきた。今では日常的な文化ともなった「ハイボール」という楽しみ方を提案したのも同社。ウイスキーの可能性を探求し続けてきた、まさに日本のモノづくりの先駆者である。2015年に鎌倉で生まれた生チョコブランド、メゾンカカオも日本のモノづくりにこだわる。カカオの可能性に魅せられ、遠くコロンビアでカカオ栽培から取り組むほど、素材への情熱がある。素材の魅力を引き出す独自のチョコレート作り、心踊るデザイン性も同社の魅力。そんなサントリーウイスキーとメゾンカカオが、互いの想いと技術を結集したチョコレートを作り上げると聞いて、早速2者の想いを聞いてみた。

石原:メゾンカカオが創業時から変わらず志すのは、日常にチョコレートを楽しむ文化を作ること。
コロンビアで見た、日常の中でチョコレートが愛され、笑顔が溢れて、何気ない毎日が豊かになる風景が僕の原点なんです。
その中でずっと見つめてきたのがウイスキーでした。
スコットランドで生まれたウイスキーが日本に伝わり、ジャパニーズクオリティで磨かれ、新たなジャパンウイスキーとして世界で賞賛される。
サントリーウイスキーがやってこられたことに学びを得て、今のメゾンカカオはあります。
いつかウイスキーのチョコレートを作る機会があれば、その時にはサントリーウイスキーでやらせて頂きたいと思っていたんです。
今回、ある方との出会いでブランドの志をお話しする機会をいただけて、このように一緒にモノづくりをさせて頂けることになった。
本当に夢のような機会です。

本山:それは嬉しい言葉ですね。私も元々、メゾンカカオは知っていたし食べたこともありました。美味しいチョコレートだなと感動したのを覚えています。ただブランドの歴史や志は知らなかったです。そんな時に、とにかく会ってみて欲しい人がいると言われて。出会ったのが石原さんでした。ブランドの今までの道のりや目指す世界を聞いた時、チョコレートに対してすごくピュアな方だなと感じました。生産地を大事にしていたり、真摯にモノづくりをしている、サントリーウイスキーのモノづくりと共通するところがとても多く。今回共にモノづくりができたことはとても光栄ですが、私にとっては石原さんと出会えて話せたことだけでも素晴らしい機会でした。

石原:嬉しいです!僕はサントリーウイスキーの香りづくりを特にリスペクトしています。日本は元々職人文化の国で、緻密なモノづくりが得意。日本人の舌のレベルは世界でもトップクラスだと思います。でも香りには弱いですよね、海外と比べても香りを楽しむとか嗅ぎ分ける、表現するのが苦手だと感じます。
近年、味の究極は香りになっていますが、その先駆者がサントリーウイスキーだと思います。日本の自然の中で感じる香りがサントリーウイスキーの中には感じられます。これって本当にすごいことです、、日本人にはなかった香りをつくることを続けてこられたのですから。僕もチョコレートを始めるにあたって、香りをどう求めるかを大事にしてきました。いかにチョコレートを綺麗に創るかが重要視される中で、見た目ではなく、味以上に香りを追い求める、そうしてたどり着いたのがアロマでした。
原点はコロンビアでカカオを初めて食べた時に、鮮度が大事と気づいたことです。だからこそ現地でカカオを作ることから始めました。サントリーウイスキーの香りを彩る、香りが響きあうというモノづくりのあり方には本当に勉強させて頂きました。

本山:面白い視点ですね!まさにサントリーウイスキーでは香りの品質を高めることを大事にしています。香りに注目して頂けることはとても嬉しいです。実は最初はスコットランドを模倣して、スモーキーなものを作っていたんです、ところが全く売れなくて・・・
そこから日本人に合うものを、とブレンドを重ねていき「角瓶」が完成しました。人と自然とで生み出されるモノづくりには、科学の力を超えたものがありますよね。サントリーウイスキーは香りを生み出すブレンド技術が世界にも評価してもらっていますし、原点になっています。創業家も「品質に終わりはない」とよく言っているんです。

なかなかこれを掲げる方は少ないと思うのですが、サントリーウイスキーも「お酒で文化をつくる」ことが信念なのです。創業者の鳥井が語る「人の心を豊かにする」ことを私もウイスキーで目指しています。ただ美味しいウイスキーを作るだけではなく、ウイスキーを飲んでいただく瞬間、そのシーンを通してお客様の生活が潤ったり豊かになる、そんな世界を目指しています。石原さんが「チョコレートで毎日を、心を少しでも豊かにしたい」とおっしゃった時、その熱量に触れてピンときました。

石原:文化づくりは僕の原点でもあり、目標です。ただ、食はトレンドの移り変わりが非常に早いので、食においてのブランドを作る、文化を創ることの難しさに日々直面しています。トレンドに惑わされずに永く愛されるモノづくりと共に、それ以外の要素も大事なんだなと感じています。

本山:そうですね、サントリーウイスキーでは品質とは製品品質だけではなく、飲用時品質も含めてとらえています。ロックで飲むのか、ハイボールで飲むのか、それは美味しい飲み方なのかという飲み方のシーン提案をずっと続けてきました。

元々ウィスキーは食事と楽しむものではなかったのですが、こうやって楽しむと食事と合いますよと紹介を続け、少しづつ定着していったんですよね。角ハイボールを日本のソウルドリンクにしていきたいと思って取り組んできましたし、ウイスキーが1つの日常のシーンとなった上で、「響」、「山崎」は特別なシーンやタイミングで楽しんでいただきたい、そう思っています。

石原:スタイルを作るときにデザインが本当に大事ですよね!広義な意味でのデザイン。実は僕・・・(石原が取り出したのは、トリス広告の本)これ、愛読書でして昔からとても参考にしています。めちゃくちゃかっこいいですよね!昔の広告が多いですが、今見ても新鮮だし斬新。モノづくりは最後、スタイルにしていくことの大切さを改めて実感しました。

本山:ウィスキーは日本人にとって馴染みのないものだったので、商品そのものを置いてるだけでは手に取ってもらえないんです。大胆な広告を打ち出し知ってもらい、実際の飲み場(トリスバー)を作ることで美味しい飲み方を提案してきました。サントリーウイスキーは角ハイボールを紹介するまで非常に苦労した時代を経験しました、それでもブレずに品質を磨き、美味しい飲み方を提案し続けての今があります。


石原:もう一つ、文化づくり・ブランドづくりにはサスティナビリティが大切だと思っています。僕はサントリーの「水と生きる」がとても好きです。

本山:私たちは水を使いながらビジネスをさせてもらっているので、水を丁寧に使うことはとても大事にしています。「人と自然と響きあう」が会社全体のミッションであり、企業としても、一個人としてもサントリーの社員は水資源は大事に考えています。日々の生活の中でもですし、水資源を守るような活動が沢山ありますが、みんな積極的に参加していますね。

石原:サスティナビリティというとCSR活動のようにとらわれがちですが、どれだけ持続性があるかが大事ですよね、その意味では社員お一人お一人がその意識を持っていることはとても大切だと感じます。僕たちもリアルにコロンビアの実情を見て、感じて、100年後もカカオを通して生産者も僕たちも、社会もどう豊かであれるかを自分たちなりに向き合ってきました。生物多様性エリアで育つカカオは麻薬の原料であるコカと実は同エリアで育つんです。カカオの農地が増えると環境にとっても経済にとっても良い影響がある。だからこそ、一見遠回りに見えるのですが、少しづつカカオの管理農園を拡大したり、農園近くで学校建設に携わったり、自分たちなりのやり方で地道に続けてきました。
先日農園を訪れた際に、その地域一帯の治安が良くなった、ゲリラ兵になって稼ぐことが夢だった子供たちが、農化学者になることを夢見ていると聞いたときは思わず泣きそうになりました。一歩づつでも持続することで、変わっていくのかなと。

本山:メゾンカカオのコロンビアでの取り組みは本当に素晴らしいです。なかなか踏み出せないし、永くチャレンジできることではないですよね。でも石原さん自身を知るほど、なぜそんな取り組みを続けるのか、よく分かるようになりました!



石原:今回は響と山崎、2種のアロマ生チョコレートが完成しましたが、本山さん、本音でいかがでしょうか?

本山:正直、びっくりしました。。ウイスキーの香りがこんなにまっすぐに、そして新たな形で表現できるとは思ってもみなかったです。まず「響」はトップの華やかな香りの後に、まろやかに長く余韻が続く飲みやすいウイスキー。飲みやすい分、特徴がつかみづらく、この香りと味わいを表現するのは至難の業だったと思います。しかし口に入れた瞬間に、ノージングしているように香り立ちます。響と香味がチョコレートを通しても感じられて、すごい完成度だと思います。

石原:ありがとうございます!トップの華やかな香りを生かすために、アタックはカカオ感が強くないチョコレートを選びました。ただ余韻は一緒に楽しみたかったので、香りが最後まで一緒にくっついていくような、一緒にカカオとウィスキーの余韻がつながるようにつくりました。

本山:そして「山崎」。「響」と比べると違いがものすごくわかりやすく、サントリーウイスキーの個性を見事に表現しています。とても濃厚で口に入れた瞬間に溶けて、後半からビターとともに押し寄せるように「山崎」の深い香りと味わいが楽しめます。「山崎」も若干酸味があるので、チョコレートの味わい、酸味、フルーティーさと合わさって、「山崎」の持つ複雑性を見事に表現しています。後半から「『山崎』を飲んでるな」とダイレクトに感じられる非常に高いクオリティです。

石原:山崎は飲むたびに毎回感じ方が違ったんです。なので方向がなかなか決まらずに、とても難しかったです。ある時、少しチェリーっぽい風味を感じて、これは切れ味が大事だと思いました。口に残る、滞留する芳醇な香りが素晴らしいので、切れ味の良いビターチョコレートを使いました。

本山;確かに「山崎」はワイン樽で熟成させた原酒を使用しているので、ベリー系がわずかに薫る珍しい味わいなんです!酸味とビター感とがとても相性が良いですね。ウィスキーは大麦などの穀物と水を原料にしているのに不思議と樽熟成させると甘みが出てくるんです。やはりウィスキーとチョコレートの相性は本当に良いですね。今回改めてそれを感じさせて頂きました。

本山:このショコラは日頃より「響」、「山崎」のファンの方々に特に楽しんで頂きたいです。お酒のことを知り尽くしている方にとって、新たな発見になれたらと思います。チョコレートと合わせることでウィスキーがより多面的になるので、発見があって、次の新しいウイスキーの楽しみ方を見つけられる、そんな体験になったら嬉しいですね。

石原:僕も原酒の美味しさを知り尽くした方の感想を是非お聞きしたいです。原酒を混ぜものにするなんて、というお考えもあると思いますが、合わせることでこういうことが創造できるのかと、違う楽しみ方をして頂けたらとても嬉しいです。一粒にここまで込められたのは、ウイスキーのこだわり、哲学、ストーリーがあってこそです。香りの素晴らしさ、日本のモノづくりの魅力を伝える1粒になれたら光栄です。

本山:ウイスキーの新しい飲み方、楽しみ方を提案していくことがサントリーウイスキーのブランドそのものを守り、成長させる上ではものすごく大事だと思っています。今回、同じモノづくりの考え、信念を持つ石原さんとこういう機会を頂けて、本当にありがたいです。

石原:今日お伺いさせて頂いたことも含めて、サントリーウイスキー、そしてメゾンカカオの想いをしっかりと届けていきたいと思います。人生を振り返ったときに、これも夢の時間だったなと思える最高の時をご一緒させていただきました。本当にありがとうございました!

ウイスキー、チョコレートという嗜好品を通して、永く愛される文化を作り、「人の心を豊かに」したいと願う本山氏と石原氏。モノづくりへの真摯な姿勢、最高級を求め続ける探究心、スタイルを作り出すデザイン、そして未来を見据えた取り組み。これらを積み重ねることでジャパンクオリティが生み出され、多くの人の心を掴んで離さないブランドがあるのだと実感した。両ブランドの想いと技の詰まったショコラ。果たしてどのような発見がそこには潜んでいるのか、今から楽しみで仕方ない。

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