《対談・後編》武井 浩三 氏 × 石原 紳伍

1983年、横浜生まれ。 2007年にダイヤモンドメディア株式会社を創業。会社設立時より経営の透明性をシステム化。独自の「管理しないマネジメント思想」は次世代型企業として注目を集める。 2017年には「ホワイト企業大賞」を受賞。 ティール組織・ホラクラシー経営等、自律分散型経営の日本における第一人者としてメディアへの寄稿・講演・組織支援などを行う。 2018年にはこれらの経営を「自然(じねん)経営」と称して一般社団法人自然経営研究会を設立、代表理事を務める。組織論に留まらず、自律分散・持続可能・循環経済をキーワードに、社会システムや貨幣経済以外の経済圏など、社会の新しい在り方を実現するための研究・活動を多数行なっている。
人間、そして企業の在り方は、どんどん多彩になっている。それは社会の豊かさを表すと同時に、混とんが加速しているともいえるだろう。
もはや、生き方も、働き方も、わかりやすい「答え」は存在しない。だからこそ、なにを大切にするのか? が問われる時代になった。
後編は、社会活動家としてさまざまな価値観に触れてきた武井さんと、カカオでコロンビアと日本を橋渡しする石原社長が、メゾンカカオが目指すべき組織、大切にするもの、そして未来について語り合った。

ティール組織とは?
石原:正解のない問いに対して、ひとりひとりの想いや意見を丁寧に救い上げ、重ね合わせていくことが「文化を紡ぐ」ことであるならば、社員ひとりひとりが自発的に行動する「ティール組織」に通じるものがありますよね。「ティール組織」について、もう少し詳しく教えてください。
武井:わかりました。フレデリック・ラルーという人が組織の段階を5つに分けて定義しています。一番下のレッドは圧倒的な個の力による支配型、その上のアンバー(橙色)は軍隊とか宗教組織みたいな硬直した上意下達のヒエラルキー型、その上のオレンジは実力や成果が評価されるヒエラルキー型。オレンジはちょっと昔のオラオラ系の営業会社によくある形態で、いわゆるブラック企業になりがちなんですよね。その上のグリーンは、成果よりも関係性を大切にして、一緒に働く人は仲間で家族だよねという組織。一番上のティール(青緑色)は、生命的組織と呼ばれていて、自律分散型に進化します。
重要なのは、普通の組織は一色じゃなくて、混ざっているということ。だからこれは、ティールが良くてレッドが悪いという話ではありません。
石原:なるほど。うちの商品開発会議の様子を振り返ると、わかりやすいですね。「こういう商品を作ってみました」「ブラッシュアップしてみました」というボトムアップの提案はティール的だし、僕が「こういう味にしたい」と最終的に決める時は、アンバーとかレッドの要素が強くなることもある。そう考えると、ひとつの組織でもいろいろな状態に変化するという前提で、メンバーひとりひとりが「今、この色が強いな」と理解したり、自覚できることがすごく大事だと思いました。
武井:そうですね。もうひとつ大切なのは、ティールとグリーンの間に大きな壁があるということです。その壁とはなにかというと、「答えがあるか、ないか」。グリーン以下だと創業社長とか経営者のなかに答えがあって、その答えに到達するために理念から人事考課制度まで作られます。誰かが決めた答えを目指すんじゃなくて、「なにがいいんだろう」とみんなで考える組織、これがティール組織だと思います。
石原:みんなで答えを探しにいくというのは、まさに弊社が目指すところ。正解がないからこそ、とてもワクワクしますね。

当事者であることを奪う振る舞いとは?
各々、意見は持っていると思うんですけど、その意見がどうしてもテーブルに載らない時があります。意見をテーブルに載せられるような関係性や環境を作るために、大事にしていることはありますか?(スタッフからの質問)
武井:組織の経営でいうと、僕はチームごとに定例のミーティングを開催します。そうすると仲間意識が自然と芽生えますね。関係性を深めるうえで、ひとつ、すごくパワフルなダイアログ手法がありますよ。僕ら自然経営研究会の仲間たちが作ったもので、「アクティブダイアログジャーニー」と呼ぶんですが、「あなたの人生で転機になった大きなできごとを3つ話してください」という設定で互いに話すと、それだけでその人の人格とか人生の背景が見えてきます。そうすると、すごく短期間で仲良くなれますし、その人が今起きている事象に対してどういう意味を見出しているのかも捉えやすくなります。
石原:「アクティブダイアログジャーニー」、面白いですね。僕は、メンバーの価値観、多様性を受け入れようと努めていますが、なにかあった時に、個性を理解するのも大事だけど、それだけではワンチームとして戦っていけないのも事実で。もっとこうしてくれたらチーム力が上がる、変わってほしいという葛藤があるんですよね。そのあたりはいつも悩みながらメンバーと接しています。
武井:人間の心の成長速度や成長段階はバラバラですが、そのためには有効なのはやはり、対話かもしれません。そうして仕事の現場で人の温かみや喜びに触れた時につながりを感じ、当事者意識が芽生えるんだと思います。

思いもよらなかった商品が生まれる可能性
石原:うちも、世界ブランドにしていくために、これからもっと個々が自然な繋がりを持つ生命的な組織を目指そうと思っています。
僕は、マーケティングとか課題解決論で商品開発をしたくないんですよ。こういう商品がこういう場にないからこういう商品を作ろうとか、このエリアはこの価格帯で商品が売られているから、こういうものを作ってみようとか。そうじゃなくて、我々のセンターには常にプロダクトがあって、生産者と一緒に価値と意味があるものを作っていきたい。そのために、組織的にも柔軟に変化に対応できる形でものづくりをしていくことが重要だと改めて感じました。
アンバサダーとして、僕らに期待することはありますか?
武井:経済的にも単純に拡大志向していけばいいという時代は終わって、答えがない世の中になりつつあるわけですよね。そうなったときに、じゃあ僕らはいったいなんのためにブランドをやっているのかということです。
メゾンカカオには、いろんな商品がありますよね。その商品を個人がどう楽しむかだけじゃなくて、その商品を媒介にして、どういう人間関係を育んでいくのかという視点が、すごく重要だと思っています。
メゾンって、フランス語でホームという意味ですよね。それなら、チョコレートを家族で楽しむ、仲間で楽しむと考えた時に、商品のなかに入っているピックは1本でいいんだっけ? とか。細かいことですけど、これもブランドのメッセージになると思うんですよ。
これまでも、ものすごくアイデンティティのある商品を作って来ているなと思うけど、そういうところのさらに議論を広げて、深めていくことで、今まで思いもよらなかったような商品が生まれるかもしれない。僕も、そのお手伝いをしたいと思っています。
石原:メゾンカカオの企業理念は「ENJOY THE UNKNOWN(未知を楽しむ)」です。誰も知らない「未知」を探して、そこからゼロベースで試行錯誤することが、人間関係を育むような新しい商品や「文化の創造」につながると思います。そのためにも、ひとりひとりが当事者であることが真に大切だと思っていますし、今日、武井さんと話して改めて強くそう感じました。今日は、ありがとうございました!
誰かが決めた答えを目指すのではなく、「なにがいいんだろう」とみんなで考える。
武井さんがいう関係性は、一朝一夕に育めるものではない。しかし、もし経営者とスタッフが同じ視点で未来を見て、将来を語り合えるような組織になったら、その企業はしなやかに、柔軟に形を変えながら、時代の荒波を乗り越えるのではないだろうか?
その道のりに近道はないし、地図もないが、メゾンカカオはすで、未知の旅への一歩を踏み出した。石原社長とスタッフひとりひとりが、手に手を取り合いながら。
