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旅するメゾン2026 北海道 大島農園を訪ねて

北海道の短い夏に実る、希少な青肉メロン「キングメルティ」。

芳醇な香りと濃厚な甘み、口いっぱいに広がる長い余韻。その味わいに惚れ込み、メゾンカカオでは毎年生チョコレートやショコラ・コキーユ、生菓子に仕立てている。

けれど自然から生まれる果実に同じ一年はない。

晴れの日も、雨の量も、気温も違う。そのすべてを受け止めながら、毎年キングメルティを育てているのが北海道の大島さんだ。

「俺だって40年以上やってるけど、それでも一年生だもん。」

長くつくり続けてきた人から出た、意外な言葉。今年もまた、大島農園を訪ねた。


今年のキングメルティ。

「わぁ、石原さん!わざわざありがとう。久しぶりね。」

いつもの笑顔で迎えてくれた奥さまが、すぐに大島さんを呼びに行く。

「おー、こんにちは。元気?」

久しぶりの挨拶もそこそこに、「農園見に行きます?じゃあ車乗って。みんなで行こう。」

大島さんの車の荷台にみんなで乗り込み、畑へ向かう。

「こういうのなかなかないでしょ。俺、スピード出すからね。」

そう笑いながら車を走らせる姿も、いつもと変わらない。

農園に着くと、大島さんは慣れた足取りでハウスへ向かいながら、今年の話を始めた。

「今年は本当に難しいよ。」

雨が続き、ほとんど晴れ間のない北海道。メロンにとって大切な日照が足りず、収穫のタイミングにも大きく影響しているという。

「7月の初めくらいが一番いいんだよね。その時は本当にうまいんだよ。」

そして少し考えるように、続けた。

「今年のはね、正直に石原さんに言わなきゃと思って。」

生で食べれば十分に美味しい。それでも、大島さんは納得していなかった。

「もっと香りを出せる。キングメルティはこんなもんじゃない。」

すると石原が言った。

「じゃあこれからは、大島さんが一番良いと思うタイミングで送ってください。」

「いい?そしたら俺も納得できるし、チョコレートの味ももっと変わるよ。」

もっと美味しくできる。そのことを誰より知っているからこそ、曖昧にしない。

大島さんのものづくりは、いつも正直だ。


本気の人と、つくりたい。

そんな二人が出会ったのは、今から何年も前のこと。

「初めて会った時の話?いやー、この人の熱に負けちゃったんだよね。」

当時、キングメルティを求めて大島農園を訪ねた石原。

「最初は、ただの若僧が『メロン欲しい』って来て、なんだって思ったし。」

キングメルティは生産量が少なく、簡単に応えられるものではない。

「面積も小さいから無理だと思ってね。追い返そうとしちゃったの。ごめんね。」

そう言って笑う大島さん。

「でも、熱量に圧倒されてね。」

「そういうもの、石原さんは持ってるよね。

俺だって本気でつくってるからさ。本気の人とは一緒にやりたいよね。」

最初から長い付き合いになると分かっていたわけではない。

ただ、美味しいものをつくりたい。その熱量が、二人をつないだ。

今では、その年の出来を正直に伝え合い、もっと香りを出せる、もっとチョコレートを美味しくできると話し合う。

つくるものは違っても、向いている先は同じなのだ。


天気が、メロンをつくる。

ハウスの中には、キングメルティの蔓が整然と伸びている。

一つの蔓に残す果実は、わずか二玉。

たくさん実らせるのではなく、これから良くなる果実を見極め、そこへ養分を集中させていく。

「メロンは木が元気じゃないと駄目なんだよ。」

果実だけを見ていても、美味しいメロンはできない。葉や蔓を健やかに保ち、その力を最後まで果実へ届ける。

熟してくると果皮は黄色くなり、やがてヘタがぽんっと外れる。その頃が食べ頃だという。

けれどどの果実を残すのか。いつ収穫するのか。

「なかなか言葉で伝えるのは難しいんだよね。見るとこれっていうのはあるんだけど。」

40年以上積み重ねてきた経験が、その一瞬の判断を支えている。

それでも大島さんは、自分の技術を誇るようなことは言わない。

「人間のできることなんて、ほんの少ししかない。」

「天気がメロンをつくってる。どんなに頑張っても、天気には勝てないよ。」

雨が降ればハウスを閉める。けれど閉め切れば熱がこもる。日照が足りなければ糖度が上がらず、暑すぎれば木そのものが弱ってしまう。

いつもメロンを見ながら、その日の天気に合わせて手を入れる。

そんな話を聞いていると、奥さまが笑いながら教えてくれた。

「夜が涼しいと、お父さんの機嫌がいいのよ。よしよし、メロンが美味しくなるってね。」

キングメルティの美味しさは、そんな毎日の積み重ねの中でつくられている。


40年以上やっても、一年生。

「キングメルティは本当に大変だから、本当はつくりたくないんだけどね。」大島さんがいつものように言う。

「それ、毎回言ってますよね。」石原が返すと笑声が起きる。

手間がかかり、天候にも大きく左右されるキングメルティ。それでもつくり続けるのは、その先に待っている人がいるからだ。

「買ってくれる人は、美味しいと思って買ってくれるから。それに応えないと。」

期待されるほど、プレッシャーも大きくなる。

時期によっては、どうしても納得できるものを出せないこともある。それが一番難しいのだと大島さんは話す。

「今だって納得してない。」

その言葉は、自分自身への厳しさというより、食べる人に対する誠実さから生まれているように聞こえた。

そして今、大島農園では少しずつ次の世代へバトンを渡し始めている。

「今は息子にもメロンを採らせてる。」

そう話したあと、大島さんが少し笑った。

「親父と息子ってのは、とくに難しいよ。目も合わせない、話さないからね。」

それでも、息子さんは自分で収穫したメロンを必ず食べているという。

「あいつも不安だからさ。採ったのを食べてるのよ。」

そして、ぽつりと「息子も親父の味を知ってる。」

長年食べてきた、父親がつくるキングメルティ。

その味にどう近づくのか。どうすれば、いつか超えられるのか。

言葉を交わさなくても、きっと必死に考えているのだろうと大島さんは話す。

「世代交代は長い目で見てあげないと。」

自然を相手にするものは、5年、10年で簡単に形になるものではない。

木を見て、天気を見て、自分で採り、自分で食べる。

その繰り返しの中でしか身につかないものがある。

「俺だって40年以上やってるけど、それでも一年生だもん。」

長く続けてきたから、何でも分かるのではない。

毎年天気が違い、木の状態が違い、一つひとつの果実も違う。

「メロンなんて一つひとつ全部違うよ。指紋と一緒。」

だから毎年、一から考え挑戦する。そしてその年の答えを探していく。


今年しかない美味しさ。

北海道の気候も、少しずつ変わっている。

「気温が内地に近づいてるんだよね。」

暑さが続けば、糖度が十分にのる前に木が弱ってしまう。

「この先、キングメルティがつくれなくなるかもしれない。」

大島さんは、静かにそう話した。

来年も同じように実るとは限らない。

同じ畑、同じつくり手、同じ品種でも、今年のキングメルティは今年しかない。

その話を聞きながら、石原も自分たちのチョコレートについて話した。

「僕らの生チョコもルセットはあるけれど、毎年変えているんです。今年の素材はこういう味だから、今年はこうしようって。」

自然から生まれる素材を扱うということは、いつも同じものをつくることではない。

その年の香りや甘み、酸味を受け取り、その時にしかない美味しさを見つけること。

それはメロンでも、チョコレートでも同じなのかもしれない。

大島さんは、40年以上キングメルティと向き合いながら、それでも毎年「一年生」だと言う。

技術を磨き続けた先にあったのは、自分の力を誇ることではなく、自然への謙虚さと、食べる人への責任だった。

一年に一度、この場所を訪れ、その年のキングメルティをいただく。

それは決して当たり前のことではない。

今年の果実に出会えたことへの感謝と、それを預かる責任を持って。


大島さんが毎年もう一度メロンと向き合うように、私たちもまた、その年の素材を見つめながら一粒のチョコレートをつくっていきたい。

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