
生チョコレートに、レモンケーキ。さらに今年はパート・ド・フリュイやハナレモナカにも。
メゾンカカオの夏を彩る瀬戶田レモンは、多くのお客様に愛される人気素材だ。なかでもレモンケーキは毎年販売を心待ちにする声が多く、昨年は真夏を迎える前の 7 月上旬には完売となった。その味わいを支えているのが、広島県瀬戶田町のレモン農家・永井さん。
なぜ永井さんのレモンはこれほど人を魅了するのか。そして、生産者とメゾンカカオ創業者・石原紳伍との信頼関係はどのように育まれてきたのか。初夏の瀬戶田を訪ねた。
レモンの島、瀬戶田
四季折々の最高の素材を求めて、国内外の生産者を訪ねる「旅するメゾン」。
2026 年 5 月。メゾンカカオの一行が向かったのは、瀬戶内海に浮かぶ島、広島県尾道市瀬戶田町だ。
真っ⻘な空。きらきらと輝く海。島へ降り立つと、眩しい日差しの中で永井さんが待っていた。
「ようこそ。」
そう言って笑顔で迎えてくれる姿は、まるで久しぶりに帰省した家族を迎えるようだった。
さっそく案内されたのはレモン畑ではなく、一枚の看板。
「レモンアイランドって書いてあるでしょ。」永井さんが指差しながら笑う。
「でもアイランドってなんだか痒いよね。みんなレモンの島って呼んどるんだけどね。」
瀬戶田は国産レモンの一大産地。国内で流通する国産レモンの約 3 割が、この島で育てられている。その中でも永井さんは、先代が 50 年以上前から有機栽培に取り組み、自身も 20 年以上農薬も肥料も使わずにレモンを育て続けてきた。
「農薬も肥料も使わないレモン農家は、今はほとんどおらんのです。」
さらりと語るその言葉の裏には、⻑い年月と試行錯誤の積み重ねがある。
香りを飲む
ひと通り話を聞いたあと、一行は「レモン谷」と呼ばれる農園へ向かった。
急な坂道を登りきると、目の前には⻘い海。木々の間を抜ける風。そして真っ⻩色のレモン。まるで映画のワンシーンのような景色の中で、永井さんのレモンダイニングが始まった。まずはレモンにナイフを入れる。
その瞬間―ぷしゅっ。皮から細かな飛沫が弾け飛ぶ。
グラスの中へ入れられたレモンの皮。
「まずは香りを嗅いでみて。」顔を近づけた瞬間、爽やかな香りに包まれる。
「うわぁ!」思わず声が漏れた。次はそこへ炭酸水。
永井さんに促されて口に含む。レモンを飲んでいるというより、香りを飲んでいる感覚だった。
さらに皮を絞ると、表面にはエッセンシャルオイルが浮かび上がる。香りがふわりと立ち上がり、また違う表情を見せる。レモンひとつで、こんなにも世界が変わる。誰もが驚いていた。
続いて搾りたての果汁。酸っぱい。けれど、その奥に甘みがある。さらにほろ苦さもある。ただ酸っぱいだけではない。果実としてのレモンの美味しさが、そこにはあった。そして最後は、レモンのお刺身。
薄く銀杏切りにしたレモンを空へかざすと、透き通る果肉はまるでステンドグラスのようだった。まずは果肉だけ。次に皮だけ。最後はそのまま丸ごと。酸味、甘み、苦み、香りと、ひと口ごとに違う表情を見せてくれる。
皮が美味しいレモン
「皮まで美味しいんじゃないんだよ。」レモンを頬張る私たちに向かって、永井さんが言う。
「うちのレモンは、皮が美味しいんだ。」その場にいた誰もが頷いた。
実際に食べれば、その意味がわかる。
白い部分には嫌なえぐみがなく、⻩色い皮には華やかな香りがある。
果実のすべてを味わいたくなるレモンだった。
その後は攻守交代。永井さんのレモンを使った新作スイーツの試食会が始まった。
パートドフリュイをひと口食べた永井さんは、すぐに笑顔になる。
「香りがいいね。」
そしてもうひと口。
「これ、レモンを食べてるみたいだ。」
嬉しそうに何粒も口へ運ぶ姿に、こちらまで笑顔になる。
素材を育てる人と、それを形にする人。その距離がとても近いことも、旅するメゾンの魅力のひとつだ。帰り際、レモンをたくさん抱えた私たちに永井さんが言った。
「こんな風に付き合えるパートナーはなかなかおらんですよ。」「会いに来てくれて、喜んでくれて、想いまで届けてくれる。」
すると石原は笑いながら答える。
「永井さん、同じメゾンですよ。」
少し照れたように笑う永井さん。
「来年の旅するアワードも呼んでね。」
「もちろんです。」
美しい瀬戶田の海を背に、手を振る永井さんの姿が少しずつ遠くなっていく。まぶしい太陽。透き通る海。レモンの香り。
また来年も、この場所へ帰ってきたい。そう思わせてくれる旅だった。